2007年11月30日
東北芸術工科大学文化財保存修復研究センター
平成17~21年度文部科学省オープン・リサーチ・センター整備事業
プロジェクト②:『地域文化遺産の再発見・再評価による地域文化遺産の循環型保存・活用研究』
平成19年度公開シンポジウム
『いま地域における石造文化遺産の保護を考える』
―地域における石造文化遺産の存在意義や特殊性とは何か。
そして、今何故石造文化遺産の保護活動を考えなければならないのか。
近年の保存工学の研究成果をもとに石造文化遺産の保護のあり方を探る―
主催:東北芸術工科大学文化財保存修復研究センター
後援:山形県教育委員会、山形市教育委員会、山形新聞社
■ 主旨
地域にはそれぞれ固有の歴史や文化を裏付ける多種多様で貴重な文化遺産が数多く存在する。中でも石碑、石塔、彫刻、橋脚や石垣といった建築構造物など石造の文化遺産は、その地域に刻まれ残ってきた、かけがえのない記憶とも言える。
これらは社寺域をはじめ、街道沿いや山岳、田畑、墓地、海岸など地域空間全体に広く分布し、日常生活空間のなかに溶け込んでいる。このため、それらは一般の市民には当たり前のような風景と化し、何故ここにあるのか、何を語っているのか、どのような状態で存在しているのか、などの現状に関する認識は決して高くはない。ましてやその保存に対する関心度となると言うまでもない。
材質も風雨に丈夫な岩石で出来ているせいか、有機質等他の材質からなる文化遺産に比べて、大変劣悪な状況に置かれている割には、保存に対する認識が低い。しかし石造文化遺産は屋外に置かれ、太陽熱や風雨や雪、凍結、地震など、複合的な環境からの圧力を常に受け続けて、徐々にではあるが確実に劣化してきている。しかも、酸性雨や大気汚染、地球温暖化などの生活環境と密接する要因の全てが石造文化遺産に悪影響を及ぼしていることも忘れてはならない。
さらに、近年においては人口減少にともなう中山間地域の過疎化、伝統的な地域コミュニティの変質や崩壊などが進行している。このような地域環境の変化により、文化遺産に対する記憶も薄れ、この過程で劣化が著しく進んだとしても、地域市民による保護の手が及ぶことは期待できない。これまで営々と築いてきた地域市民の生活環境(すなわち文化遺産の保護環境)自体が大きく変質し劣化しているのが現状であるからだ。
しかし、伝統文化や歴史を知る上でも貴重でかけがえのない石造文化遺産は、地域の文化的景観を形成する重要な核(コア)であり、生活文化環境の質を示すバロメータでもある。
この地域のアイデンティティにつながる文化資源をどう保護、活用するべきか。グローバル化や情報化が進むこの変革の時代だからこそ、地域の記憶を刻む石造文化遺産の保護のあり方を今問うべきではなかろうか。
地域の石造文化遺産をめぐって、まさしく記憶という時間的風化と、持続的な保護環境の変質(劣化)という命題が私達に突きつけられているのである。
これまで二回にわたって開かれた一連の公開シンポジウムでは、山形に残る日本最古の石鳥居群の本来的な価値について多角的に考察を行ってきた。これにより、鳥居の木造様式から石造に変わる最古年代を示す貴重な文化遺産であること、さらには鳥居の本来性は東アジア文化史からの再考が重要であること、などが明らかとなった。
その一方で、保護活動においては、地域空間と一体化した「面的保存」に基づいた地域住民参加プロセスを重視し、長期的ビジョン作成に向けての地域社会との認識共有が進み、地域の自発的な文化遺産保護活動の気運が高まりつつある。
このような現状を踏まえて、今回の公開シンポジウムでは地域の石造文化遺産を「いま何故保護する必要があるのか」、そして「どのように保護すべきか」を地域市民とともに考えていきたい。特に今回の公開シンポジウムでは、石鳥居群の保存活動を本格的な軌道に乗せるべく、科学的な手法による研究調査の成果を一般に公開し、保存の現状と課題に関する地域市民との更なる認識の共有を図ろうと考える。
このために、石造文化遺産の保護研究活動に携わる国内における第一線の研究者たちを招いて、それぞれの研究活動と成果に関する報告に耳を傾け、石鳥居を始めとする石造文化遺産の保存に関する知見を広げることとする。
また基調講演には上田篤京都大学の名誉教授をお招きし、「何故いま地域の文化遺産を保護する必要があるのか」について哲学的な視座を求めたい。さらに地域アイデンティティの象徴である「鎮守の森の保全と鳥居」についての一考を拝聴する。
■ 日程と会場
2008年1月12日(土)・本学本館4階408講義室
入場料:無料
■ スケジュールと内容
13:00-13:30 受付
13:30-13:10 開催の挨拶(松田泰典・文化財保存修復研究センター長)
13:10-14:00 基調講演(上田篤・京都精華大学名誉教授)
「何故、鎮守の森と鳥居を守るのか―文化遺産と環境保全の原点を探る」
14:00-14:40 講演1 西浦忠輝(国士舘大学教授)
「石造文化財の保存修復の実践30年」
14:40-15:20 講演2 石崎武志(東京文化財研究所)
「寒冷地の石造文化財における凍結融解のメカニズム」
休憩(センター施設と企画展示案内)
15:40-16:20 講演3 山路康弘(別府大学文化財研究所)
「大分地域の石造文化財の特殊性と保存」
16:20-17:00 講演4 張 大石(東北芸術工科大学文化財保存修復研究センター)
「山形に残る日本最古の石鳥居群の保存」
17:05-17:55 パネルディスカッション
「地域における石造文化遺産の保護
~何故いま保護するのか、いかに保護すべきか~」
モデレーター:松田泰典
パネリスト:上田篤、西浦忠輝、石崎武志、山路康弘、張大石
17:55-18:00 閉会の挨拶(松田泰典)
■ 基調講演者紹介
○上田 篤(うえだ あつし)
1930年大阪生まれ。1956年京都大学大学院修了。建設省住宅局技官、大阪大学工学部環境工学科教授、京都精華大学美術学部デザイン学科建築分野教授などを経て、現在はNPO法人社叢学会副理事長、京都精華大学名誉教授。専門は建築学及び比較文明論。鎮守の森は地域のランドマークであり、緑をつくり、空気を清め、水を貯える。そして生き物を育て、それ自身が生き物として環境文化の原点と考え、長年に渡って鎮守の森の実践的な保全と調査活動を展開している。鎮守の森の保全から文化遺産保護活動の原点と哲学的な視座を学ぶべきものは多い。
主な著書に『日本人と住まい』(1974岩波書店)、『橋と日本人』(1984岩波書店)、『五重塔はなぜ倒れないか』(1996新潮社)、『鎮守の森の物語』(2003思文閣出版)、『日本人の心と建築の歴史』(2006鹿島出版会)、『鎮守の森』(2007鹿島出版会)など多数。
【申込み・問い合わせ】
東北芸術工科大学文化財保存修復研究センター
023-627-2204