東北芸術工科大学 文化財保存修復研究センター

Tohoku University of Art and Design,
Institute for Conservation of Cultural property

保存科学部門

保存科学部門は各修復研究室が必要とする構造・材質、劣化状態・要因、保存環境等に関する情報を自然科学的に調査分析し、修復部門を支援する役割を担っています。現在の保存修復では、科学的なデータで文化財の状態を診断することが重要視されています。使用されている材料や制作技法、具体的な劣化の現状とその要因を明らかにしたうえで、適切な処置を施したり環境を整えていくのです。当センターの保存科学研究室は、多様な文化財に対応した最新の機器を設置し、様々な科学分析が可能となっています。

東洋絵画や西洋絵画に使用されている顔料や金属製品の元素分析には、蛍光X線分析装置(XRF)を用います。蛍光X線分析は含有元素を非破壊で分析することができるため、文化財に適した分析方法です。さらに高度な分析にはエックス線回折装置(XRD)を使用して結晶構造、鉱物名まで同定することができます。

剥落した顔料片などさらに極小な試料は走査型電子顕微鏡(SEM)を使用すると光学顕微鏡よりも高倍率かつ高い分解能で観察することが可能です。また、当センターのSEMにはエネルギー分散型X線分析装置が組み込まれているので、微小部の元素分析をすることも可能です。

ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)は気体サンプルを成分ごとに分離し、それぞれの質量と化合物を分析する装置です。建材等から発生する揮発性物質の中には文化財の材質を変色させるような影響を与える物質もあります。そうした物質が収蔵室内に発生していないか、導入予定材料から有害な気体が発生しないかなど、環境に関わる分析も実施しています。

有機化合物中の結合部はその原子団の種類によって異なる振動・回転をしています。この性質を利用して有機化合物の分析を行うのがフーリエ変換赤外分光分析計(FT-IR)です。この分析方法で接着剤や漆などの同定が可能となります。

当センター内にはレントゲン撮影のシステムを設置しており、彫刻作品や絵画作品などの構造や内部の劣化状態を診断可能です。2010年度に実施した仏像の調査では虫が内部に入り込みトンネルのように食害が進行している様子が明らかになりました。新たに導入した可搬型のX線発生装置により大型の仏像や絵画など、現地でレントゲン撮影することが可能となり大きな成果をあげています。

以上、国内で他に例がないほど充実した設備を擁し、各修復部門と連携した活動が可能となっていることが本学保存科学部門の大きな特徴です。また、寺社仏閣や展示施設の温湿度環境調査、総合的有害生物防除管理に基づく生物被害の調査とその改善にも積極的に取り組んでいます。

考古資料の保存処理について

保存科学部門は出土木製品や金属製品の保存処理委託業務も実施しています。発掘は土中にあった遺物の環境を急激に変える作業でもあります。出土木製品は湿潤な土壌中で長い年月の間に多量の水分を含む脆弱な状態となります。発掘され外気にさらされると急激に乾燥するため、弱くなった木胎の組織が耐えられず極度な変形・収縮を生じます。そのために水を常温常圧下で安定な薬剤と置換する化学的な処置を施す必要があります。金属鉄製品の場合は、土中で入り込んだ塩類により腐食が促進され崩壊してしまいます。これを防ぐために脱塩や防錆処置、強化処置をします。こうした保存処理は貴重な考古資料を保存する上では不可欠な化学的な処置です。


保存科学|蛍光エックス線

蛍光エックス線|彫刻作品表面の彩色部を蛍光X線で分析し、金の使用を確認しました。(鶴岡カトリック教会「黒い聖母像」保存修復|2007年)

保存科学|X線回折

X線回折|主に顔料など結晶性の物質を分析することができます。センターの装置は、二次元検出器を搭載し、微小な試料でも効率的にデータを得ることができます。


保存科学|フーリエ変換赤外分光分析

フーリエ変換赤外分光分析|接着剤や漆など有機化合物を同定する際に使用するフーリエ変換赤外分光分析装置。

保存科学|可視紫外分光分析

可視紫外分光分析|可視光線、紫外線を照射し反射・吸収する電磁波をその波長ごとに分光します。物資の種類や表面状態で異なるスペクトルを得ることができます。


保存科学|遺物処理室

遺物処理室|出土木製品や金属製品の保存処理を実施する設備です。大型の真空凍結乾燥器も設置しています。

保存科学|ガスクロマトグラフ質量分析

ガスクロマトグラフ質量分析|揮発性有機物質などを分離し、さらに質量を分析して物質の同定を行います。環境に関わる分析に適した機器です。


保存科学|走査型電子顕微鏡(SEM)

走査型電子顕微鏡(SEM)|光学顕微鏡より高倍率かつ高い分解能での表面観察が可能です。エネルギー分散型X線分析装置が組み込まれており、元素分析にも対応しています。